こころ論文研究室
創造

『正解にたどり着く創造性』と『アイデアを広げる創造性』は同じように鍛えられるのか

📄 Assessing the role of attentional inhibition and cognitive flexibility in convergent and divergent thinking during creative task performance.

✍️ Hughes, ZD, Ball, LJ, Judge, J

📅 論文公開: 2026年1月

3つのポイント

  1. 1

    注意をそらす情報を抑える力(抑制)と、考え方を切り替える力(認知的柔軟性)が、『正解に絞り込む思考』と『アイデアを広げる思考』のどちらに効くのかを2つの実験で調べた研究です。

  2. 2

    正解に絞り込む収束的思考(CRATの正答率)は抑制と柔軟性の両方と関連し、特に論理的に解こうとしたときに強く結びついていました。

  3. 3

    アイデアを広げる拡散的思考(AUT)との関連は弱く限定的で、抑制は独自性の高さとだけ関連し、柔軟性はどの側面とも関連しませんでした。

論文プロフィール

  • 著者: Hughes, ZD / Ball, LJ / Judge, J
  • 発表: 2026年、BMC Psychology 誌
  • 対象: 2つの実験室実験の参加者(抄録には具体的な人数の記載なし)
  • 調査内容: フランカー課題の成績(一致・不一致・逆転条件での反応時間と正答率)から注意の抑制と 認知的柔軟性 (考え方を切り替える力)の個人差を算出し、これらが 収束的思考 (Compound Remote Associates Test、CRAT)と 拡散的思考 (Alternative Uses Task、AUT)の成績をどの程度予測するかを検証。実験2ではウィスコンシンカード分類課題を追加して柔軟性を測定し、CRATの各問題を「ひらめき」で解いたか「分析」で解いたかの自己報告も収集した。
  • 証拠の強さ: 2つの実験室実験による個人差の相関研究であり、単発の実験に基づく限定的な証拠です(low)。因果関係は示せません。

エディターズ・ノート

「創造性」はひとつの能力として語られがちですが、この研究は「正解に収束させる思考」と「アイデアを広げる思考」を支える認知の土台が異なりうることを示しています。様式でいえば「創造」の知見ですが、その土台には 実行機能 (注意をコントロールする力)という、注意や集中とも重なる基盤が関わっている点が興味深いところです。

何がわかったか

2つの実験を通じて、収束的思考の指標であるCRATの正答率は、注意の抑制と認知的柔軟性の両方によって予測されました。特にこの関連は、参加者が問題を「分析的に」解いたと自己報告した場合に強く現れました。

一方、拡散的思考の指標であるAUT(流暢性・柔軟性・独自性の3側面で採点)との関連は、より弱く選択的なものでした。注意の抑制はAUTの「独自性」の高さとは関連していましたが、「流暢性」や「柔軟性」とは関連していませんでした。さらに、認知的柔軟性はAUTのどの側面とも有意な関連を示しませんでした。

著者らは、注意の抑制と認知的柔軟性が、拡散的思考よりも収束的思考の成績とより強く一貫して結びつくと結論づけています。ただし、抄録には具体的な参加者数や統計量(効果量など)は明記されておらず、この研究は相関関係を扱う個人差研究であるため、「抑制や柔軟性を鍛えれば創造性が上がる」という因果関係を示すものではない点には注意が必要です。

🔍 CRATとAUTは何を測っている課題か

CRAT(Compound Remote Associates Test)は、一見無関係な3つの単語(例: 「松」「クラブ」「くし」)に共通してつながる1つの単語を答える課題で、ばらばらな手がかりを1つの正解へと収束させる力を測ります。

AUT(Alternative Uses Task)は、身近な物(例: レンガ)の通常とは異なる使い道をできるだけ多く考える課題で、「流暢性(数の多さ)」「柔軟性(発想のカテゴリの幅)」「独自性(珍しさ)」といった複数の側面から採点されます。前者は答えを1つに絞る思考、後者は答えを広げる思考を代表するタスクとして使われています。

理論的枠組みとの接続

この研究は、Guilfordが提唱した 収束的思考 拡散的思考 の区別を、実行機能(抑制・柔軟性)という認知的な土台から検証したものと位置づけられます。

また、CRATを「ひらめき」で解いたか「分析」で解いたかという自己報告に注目した点は、 二重過程理論 (直感的・自動的な処理と、意識的・努力を要する処理を区別する考え方)とも接続します。この研究では、抑制と柔軟性が効きやすいのは、分析的な(意識的に手続きを踏む)解き方を支える場面であるという示唆が得られています。

🔍 『ひらめき』と『分析』という二つの解き方

同じCRATの問題でも、人によって、あるいは問題によって、答えが「ふっと浮かぶ」ひらめき型の解き方をする場合と、手がかりを一つずつ検討していく分析型の解き方をする場合があります。この研究では、注意の抑制と認知的柔軟性が創造的な成績を予測するのは、主に分析型の解き方が使われた場面だったとされています。ひらめき型の解決には、また別の認知プロセスが関わっている可能性があります。

🔍 この研究でわかっていないこと

抄録には参加者数や具体的な統計値(p値・効果量など)の記載がなく、実験室での特定の課題(フランカー課題、CRAT、AUTなど)に基づく個人差の相関関係を扱った研究です。因果関係は示されておらず、日常のさまざまな創造的な場面(仕事の企画立案や芸術的な創作など)にどこまで一般化できるかも今後の検証が必要です。

自己観測への手がかり

「正解を絞り込む」思考と「アイデアを広げる」思考は、頭の使い方として質が違うかもしれない、という見方は、自分が普段どちらのモードを得意としているか、あるいは場面によってどう使い分けているかを振り返る手がかりになるかもしれません。

読後感

あなたが何かを考えるとき、「これだ」という一つの答えに絞り込んでいく感覚と、思いつく限り選択肢を広げていく感覚、どちらの方がしっくりきますか。