運動習慣は創造的思考を広げるか——あいまいさへの耐性が鍵を握る
📄 Benefits of exercise training on divergent thinking: The mediating role of ambiguity tolerance.
✍️ Li, X, Liu, J, Wang, T, Peng, H, Pi, Z
📅 論文公開: 2023年
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3つのポイント
- 1
運動習慣のある大学生は、そうでない学生よりも拡散的思考(アイデアの流暢さ・柔軟性・独創性)のスコアが高かった。
- 2
単一種目より複数種目のトレーニングを行う学生の方が、拡散的思考の複数指標で優れていた。
- 3
あいまいさへの耐性(不確かな状況を受け容れる心理的傾向)が、運動と拡散的思考の流暢さの差を完全に媒介していた。
論文プロフィール
- 著者: Li, X., Liu, J., Wang, T., Peng, H., Pi, Z. / 2023年 / PsyCh Journal
- 対象: 中国の大学生 492 名(運動習慣の有無・種目数で群分け)
- 調査内容: 運動習慣の種類と 拡散的思考 拡散的思考 一つの問いから多様なアイデアを広げる思考。収束的思考(絞り込む思考)と対をなし、創造の両輪とされる。 スコア(Unusual Use Task)、あいまいさ耐性尺度との関係を横断的に検討
- 証拠の強さ: 横断・観察研究のため因果を示せません。運動と創造性の関係を示す予備的な証拠です。
エディターズ・ノート
「身体を動かすと頭が柔らかくなる」という直感は、なぜ成り立つのか。本研究はその「なぜ」に一歩踏み込み、あいまいさへの耐性という心理的傾向を媒介変数として特定しようとした点が興味深いです。創造(creativity)の様式を照らす知見として取り上げます。
何がわかったか
大学生 492 名を対象に、運動習慣の有無・種目数と 拡散的思考 拡散的思考 一つの問いから多様なアイデアを広げる思考。収束的思考(絞り込む思考)と対をなし、創造の両輪とされる。 の関係を調べました。拡散的思考の測定には「Unusual Use Task(通常と異なる使い方を多数挙げる課題)」が用いられ、流暢さ(アイデア数)・柔軟性(カテゴリの多様性)・独創性(珍しさ)の 3 指標が評価されました。
主な結果は以下のとおりです。
- 運動あり vs. なし: 身体トレーニングを行っている学生は、行っていない学生よりも 3 指標すべてで高いスコアを示しました。
- 複数種目 vs. 単一種目: 複数の種目を掛け合わせたトレーニングを行う学生は、単一種目のみの学生より流暢さ・柔軟性・独創性で優れていました。
- 媒介分析: あいまいさへの耐性(曖昧・不確実な状況をネガティブに捉えずに受け容れられる傾向)が、身体トレーニングの有無と拡散的思考の流暢さの差を完全に説明しました(完全媒介)。柔軟性・独創性については媒介効果は確認されませんでした。
🔍 拡散的思考とは何か
拡散的思考 拡散的思考 一つの問いから多様なアイデアを広げる思考。収束的思考(絞り込む思考)と対をなし、創造の両輪とされる。 は、一つの問いに対して多様なアイデアを生み出す能力で、創造的思考の中心的要素のひとつとされます。対になる概念が 収束的思考 収束的思考 多くの候補から最適な一つへ絞り込む思考。拡散的思考で広げた案を形にする段階で働く。 (正解をひとつに絞り込む思考)です。Unusual Use Task では「レンガの新しい使い方を挙げてください」のような問いに対し、できるだけ多く・多様に・珍しいアイデアを答えます。
🔍 この研究の限界点
横断研究である点が最大の制約です。運動習慣と拡散的思考のスコアが同時点で観察されているため、「運動が思考を変えた」のか「もともと創造性の高い人が多様な運動を選ぶ」のか、方向性を断定できません。また対象が中国の大学生に限られており、他の年齢層・文化圏への一般化には注意が必要です。サンプルサイズは 492 名と比較的大きいものの、自己申告による運動量の測定には誤差が含まれます。
理論的枠組みとの接続
拡散的思考 拡散的思考 一つの問いから多様なアイデアを広げる思考。収束的思考(絞り込む思考)と対をなし、創造の両輪とされる。 はギルフォード(Guilford)が提唱した概念であり、流暢さ・柔軟性・独創性・精緻化という複数の側面から構成されます。本研究はそのうち「流暢さ」においてあいまいさ耐性が完全媒介として機能することを示しました。
あいまいさ耐性とは、答えが一意に定まらない状況や未確定の問いに対し、不快感を最小化しながら関わり続けられる個人差特性です。運動——とりわけ複数の種目や動きのパターンを組み合わせるトレーニング——が、不規則な状況への適応経験を積ませ、あいまいさへの耐性を高める可能性を著者らは示唆しています。
ただしこの経路はあくまで仮説であり、横断データから因果関係を導くことは難しいという点は繰り返し留意が必要です。
自己観測への手がかり
「正解がない問い」に向き合うとき、自分がどのような姿勢をとるか。そのときの内側の感触(落ち着き?焦り?好奇心?)は、あいまいさとの関係を映す一種のサインかもしれません。
身体を動かす習慣の有無にかかわらず、あなたが「不確かさを面白がれた」経験はどんな文脈で起きていたでしょうか。
読後感
あいまいな状況を「解消すべき不快感」としてではなく、「探索の余地」として眺められるとき、あなたのアイデアの幅はどう変わるでしょうか。