こころ論文研究室
注意と没入

InstagramとTikTokはフロー状態を生み出す――その没入はウェルビーイングに何をもたらすか

📄 Instagram and TikTok Flow States and Their Association with Psychological Well-Being.

✍️ Roberts, JA, David, ME

📅 論文公開: 2023年

フロー状態 ソーシャルメディア 心理的ウェルビーイング 横断研究 利用と満足理論

3つのポイント

  1. 1

    InstagramとTikTokはどちらもフロー状態を引き起こすが、各プラットフォームの没入がウェルビーイングに与える影響は異なる可能性がある。

  2. 2

    フロー状態は本来ポジティブな没入体験だが、SNS の文脈では否定的な結果が生じても継続するという側面が指摘されている。

  3. 3

    利用と満足理論を枠組みとしたこの調査研究は横断デザインのため、因果関係を直接示すことはできない。

論文プロフィール

  • 著者: Roberts, JA・David, ME / 発表年: 2023年 / 掲載誌: Cyberpsychology, Behavior and Social Networking
  • 対象: 成人のInstagramおよびTikTokユーザー(調査票による横断サンプル)
  • 調査内容: 各SNSプラットフォーム使用中のフロー状態の経験と、その状態が心理的ウェルビーイングに与える影響を比較
  • 証拠の強さ: 横断調査研究のため因果関係は示せません。関連の方向性を探る観察的エビデンスです。
🔍 抄録の範囲について

本稿が参照できる情報は公開された抄録の範囲に限られます。抄録はサンプルへの言及の途中で終わっており、具体的な参加者数・効果量・統計的有意水準は確認できていません。そのため、本記事では研究デザインと概念的な知見の枠組みを中心に紹介します。

エディターズ・ノート

スクロールが止まらない、気づけば30分経っていた――SNSの「引力」はフロー理論が描く没入とどこか重なります。この研究は「注意と没入」の様式に直接触れるテーマです。ただし、日常的な作業の没入と、アルゴリズムが設計した受動的な没入とでは、ウェルビーイングへの作用が同じとは限りません。その差異を問うこと自体が、この研究の問題意識です。

何がわかったか

Roberts と David はフロー状態に着目し、InstagramとTikTok使用中の没入経験を、「利用と満足理論(Uses and Gratifications Theory)」という枠組みから検討しました。利用と満足理論とは、人がメディアを使う理由を「特定の欲求を満たすため」と捉える考え方です。

フロー 状態とは、チクセントミハイが定義した「活動に完全に没入し、それ以外のことがほとんど気にならなくなる状態」です。本研究はこれをSNS利用に適用し、プラットフォームごとに異なるフロー体験が生じる可能性と、そのフロー状態が心理的ウェルビーイングを高めるのか、あるいは損なうのかを調べています。

🔍 SNSのフロー:従来のフロー概念との違い

チクセントミハイが描いたフローは、スキルと課題難度のバランスが取れた能動的活動(音楽演奏・登山・プログラミングなど)で生じます。一方、SNSの没入は外部のアルゴリズムが供給する刺激への受動的な反応として生じやすく、本人がコントロールする余地が少ない点で性質が異なります。本研究の抄録では「否定的な結果があっても活動を継続してしまう」という側面も言及されており、ポジティブとは限らない没入の存在が示唆されています。

具体的な数値は公開抄録から確認できないため、ここでは研究の設計と問いの構造を伝えるにとどめます。両プラットフォームを比較したことで、「没入の質や深さがプラットフォームによって異なる」可能性を検証した点に、この研究の貢献があります。

理論的枠組みとの接続

この研究はフロー理論(チクセントミハイ)を軸に置きながら、利用と満足理論との接続を図っています。人がInstagramやTikTokを使うとき、情報収集・社会的比較・娯楽・自己表現といった複数の動機が絡み合います。フロー状態はその動機が満たされる過程で生じるのか、それとも動機とは切り離されたアルゴリズムの引力として生じるのか――この問いは、 内発的動機づけ (それ自体が面白くて続ける状態)と外部設計の没入をどう区別するかという問題でもあります。

🔍 自己決定理論との接続

自己決定理論は、動機の質を「自律性・有能感・関係性」の三要素で評価します。SNSの没入がこれらを満たしているかどうかによって、同じフロー状態でもウェルビーイングへの影響が変わると予測できます。プラットフォーム間の差異を調べたこの研究は、その検証の一歩として位置づけられます。

自己観測への手がかり

SNSを使っているとき、「気づいたら時間が経っていた」体験は多くの人に共通します。その没入が、作業や学習における没入と同じ感覚かどうか――引き込まれ方の質を振り返ると、自分の「注意の使われ方」が見えてくるかもしれません。

読後感

あなたが最近SNSを長時間使っていたとき、それは自分で意図した没入でしたか。それとも気づかないうちに引き込まれていましたか。